恐かったこと

とりあえず快復した。
年末から年始にかけて、づつない日々を過ごす羽目になった。
 
書くこともないのも寂しいので記憶をたよりに記してみる。
 
その日、レッスンルームに行くべく難波のYESナンバビルへ行った。
一階でエレベーターを待っていた。
暫くして上方階からエレベーターが下りてきた。
 
扉が開いた。
中に一人乗って居たのだが、その男の人は降りる気配がない。
多少怪訝に思いながらも、エレベーターに乗り込んだ。
どうもその男の人は携帯電話で通話中であるらしい。
なんとなく納得した。
そのエレバーターはビルの外側に半分剥き出した感じで設置してあるタイプである。
扉と逆の奥側がガラス張りになっている。
エレベーターを出てビルの中に入ることで電波の受信状態が悪化し通話が切れるのを懸念したのだと、勝手に解釈した。
 
他にエレベーターを利用しようとする人はいなかったのか、乗り込んだのは私だけ。
エレベーターの中は、私とその男の人だけとなった。
七階のボタンを押した。
何となく違和感を感じた。
そっとその男の人の方を盗み見る。
 
その人が持ってる物が明らかに携帯電話ではない。
誰と何で話しているんですか?
あなた、ドッピオさんですか?
 
ほんの僅かな時間なのだが、とても長く感じた。
身動き一つ出来ない。
目的の階に着くのをこれほど待ち遠しく思ったのは初めてであった。
もしくは誰かがどこかの階から乗ってこないかとも惟る。
結局、願いは叶わずであった。
 
漸く七階に到着。
そそくさとエレベーターを出る。
 
安堵感に襲われる。
 
七階から乗る人は誰も居なかった。
エレベーターの扉が閉まるのを横目で確認。
 
降りるエレベーターの中でその男の人は尚も話を続けていた。携帯電話でない代物に対して。